国税に挑むサッポロビールの勇気ある戦い 裏表全詳報

「極ZEROはやはり第三のビールだ」「取り過ぎの酒税115億円を返せ」
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尾賀社長は’13年、54歳の若さで社長に就任した。追加納付の影響で、’14年12月期の最終損益予想は約66億円の赤字となっている
 静岡・焼津市にあるサッポロビールの静岡工場。広大なビオトープ園を備えたこの工場には、〝サッポロの頭脳〟である、価値創造フロンティア研究所や商品・技術イノベーション部が入っている。日々、研究開発が行われ、年間に醸造される試作品は400種類にも達する。
 昨年から、そこで、ある検証作業が続けられてきた。いま売れに売れているサッポロの大ヒット商品、「極ZERO」は第三のビールなのか、それとも発泡酒なのか――。
 今年1月26日、検証の結果を受け、同社は国税当局に、昨年6月に追加納付した115億円を返還するよう求めた。国税の顔色をうかがい、従ってきたがもうやめた! とばかりに周到に準備を進め、反撃のノロシを上げたのだ。
 コトの経緯を振り返ろう。
 同社は’13年6月に第三のビールとして極ZEROを発売。かつて「技術的に不可能」といわれた、「プリン体ゼロ、糖質ゼロの第三のビール」は、目標を大きく上回る大ヒットを記録した。
 ところが昨年1月、突然、国税当局からその製造方法を提示するよう連絡が入った。国税は「製法を問い合わせただけ」と言うが、そこには、極ZEROの製品区分を発泡酒に変更してより多くの税金をブン取りたいという思いが透けて見えていた。
「発泡酒にかかる税額は350ml換算で約47円。第三のビールは約28円です。各社が第三のビールの開発に取り組み、酒税の税収が落ち込むなか、国税はなるべく税率の高い区分に酒を割り振ろうと躍起になっている」(大手酒類メーカー社員)
 国税に目をつけられれば、その追及を逃れるのは困難だ。
「国税庁の課税部酒税課は、いわば『酒の番人』です。商品の区分は非常にあいまいで、ビール、発泡酒、第三のビールのどこに割り振られるかは、彼らの解釈にゆだねられている。極ZEROは第三のビールのなかの『リキュール』にあたり、これは発泡酒との区別が非常に難しい。突きつめると麦汁の発酵のタイミングが判断の基準になるのですが、どれだけ企業側が調査をしても完全な判別をするのはムリ。すると解釈の幅が広くなり、国税がクロと言えばクロになる」
 こう憤るのは、前出のメーカー社員だ。
「企業は製品の開発途中に何度も国税に問い合わせ、やり取りし、交渉録まで作る。なんとか担当者レベルでOKが出たかと思うと、あとから上司が出てきて『指導間違いでした』と平気で言ってくる。追徴金を取られる場合もある」(同)
 極ZEROのケースでも、同社と国税はキチンとやり取りをしていた。
「製造方法や税率区分については、発売前に所轄の税務署へ申告手続きを行いました」(サッポロHDコーポレートコミュニケーション部担当者)
 それが突如、ハシゴを外すようにプレッシャーをかけられたのだ。社内の怒りは頂点に達した。
「社内に、国税の主張を認める雰囲気が漂いはじめると、開発、製造の部門の社員を中心に『おかしいぞ、ふざけるな、国税の言いなりになるのか』という声が上がりました。担当役員に詰め寄った社員もいた。しかし、あの段階では国税とケンカをするには材料がなさすぎました。国税からの指摘で、突然、区分が変更され混乱が生じるくらいなら……と極ZEROの区分を自主的に発泡酒に修正したんです」(サッポロ幹部)
 サッポロは極ZEROの販売を停止し、翌7月に発泡酒として再発売。その際、それまでの売り上げの酒税の差額115億円と延滞税1億円の計116億円を納付した。
「ただしこれは『自主納付』でした。尾賀真城(まさき)社長(56)は社内で、『自主調査では、まったく問題は出ていない。極ZEROが発泡酒にあたらないことがハッキリしたら、115億円は返してもらう』と説明し、社員も納得した」(同前)
 つまり、最初からサッポロは115億円を取り返すつもりで準備を進めていたのだ。前出のサッポロHD担当者がいう。
「国税当局の照会を受けてから、わが社は自主的に検証を続けてまいりました。一連の検証作業を終えたことから、専門家の意見も踏まえて、修正の請求をすることになりました」
 尾賀社長は営業畑出身で、かつてはキリンの工場城下町、東京・王子を回っていたこともあるバリバリの体育会系。3月には株主総会も控えており、株主らに国税と戦う姿勢を見せる必要もある。
 さらにサッポロの決断をダメ押しする、別の要因もあった。
「税制改革です。本来であれば今年、第三のビールが増税されて発泡酒と一本化されているはずでした。それにともなってビールの税率が下げられ、将来の税制一本化の布石となるはずだった。それが昨年末の衆院選のどさくさにまぎれて、先送りされてしまった。もう1年同じ税制が続くと、極ZEROを発泡酒に変更した負の影響が大きくなります」(ジャーナリスト・永井隆氏)
 サッポロに勝機はあるのか。前出の大手メーカー社員はこういう。
「相手は国税ですから、すぐに115億円を返すということはまずないでしょう。勝てる可能性は高くはない」
 この騒動さなかの1月27日には、ライバルのキリンが、極ZEROと同じ、プリン体ゼロ、糖質ゼロの第三のビール「のどごしオールライト」を発売し、ヒットを飛ばした。トンビに油アゲをさらわれた格好だ。これでは、「男は黙って」のサッポロも黙っていられない。勇気ある反論は国税を動かせるか。
PHOTO:時事通信社(尾賀社長、国税庁長官)
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