京都 仁和寺 「法廷で明らかにされたブラック企業体質」

356日(!)勤務の元料理長が起こした訴え、裁判所は4250万円の支払いを命令
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平安時代中期の888(仁和4)年に創建された仁和寺。天皇家とのつながりが深く御室御所とも呼ばれた。鎌倉期、兼好法師が随筆『徒然草』で仁和寺のエピソードを紹介したことでも有名
 真言宗御室(おむろ)派の総本山で世界遺産にも登録されている仁和寺(にんなじ)(京都市右京区)で、とんでもない騒動が起きている。
「あれだけヒドい仕打ちをして、仁和寺からいまだに謝罪はありません。誠意のなさにショックを受けている」
 こうあきれるのは仁和寺の宿泊施設、御室会館の食堂で働いていた元料理長の男性A氏(58)だ。彼は長時間労働で精神疾患を発症したとして、未払いの賃金や慰謝料など約4700万円を求め提訴。京都地裁は訴えを認め、4月12日に仁和寺に4250万円の支払いを命じる判決をくだした。以下は法廷で明らかになった、名刹(めいさつ)の”ブラック企業体質”である。
 A氏が御室会館で働き始めたのは、’04年の2月から(発言はA氏)。
「私は京都市内のホテルのレストランで働いていました。そこの支配人が御室会館に移籍し、『食堂で働いてくれないか』と誘われ受けたんです。試用期間をへて、翌年には料理長に昇進しました」
1人で300人分の食事を調理
 A氏は湯葉や豆腐など、京都の食材をいかした料理で宿泊客をもてなした。朝5時半から厨房に入り、朝食、昼食、夕飯の準備と夜遅くまで対応に追われたが、2人の部下がサポート。状況が一変したのは’11年8月になってからだ。
「部下2人が相次いでやめてしまったんです。私はたった1人で対応せざるをえなくなりました。修学旅行で団体客が泊まるときなど、多ければ一日で300人ほどの食事を作らなければなりません。懐石料理は簡単にできない。3日前から食材をそろえ、仕込みをしなければならないんです。『とても1人ではムリ』と支配人に相談しましたが、『勝手な補充は(仁和寺の)本坊が許さない』『調理スタッフを探すなら料理長の責任でやれ』ととり合ってもらえませんでした」
 A氏は多忙なスケジュールの合間に、自腹で十数万円を払い料理人案内所で新人を1人紹介してもらう。だが彼の腕はとても料理を任せられるようなレベルではなく、実質A氏が1人で対応せざるをえなかった。月の時間外労働は最長で240時間になり、’11年はなんと年間356日出勤で、御室会館に泊まりこみ徹夜することもしばしば。超過分の残業代は払われず、自分の食事は厨房で立ったまま残りモノを食べるという有り様だった。
「あまりに忙しいので、洗い場のパートの女性に料理を手伝ってもらったんです。すると心ない僧侶から『アイツらはデキている』とウワサを立てられた。疲れで常に体がだるく、カゼをひくとなかなか治りません。体力には自信がありましたが、もう心身ともに限界でした」
 A氏は’12年8月に抑うつ神経症と診断され休職する。だが仁和寺は、病気になった料理人は必要ないと判断したのか退職を要求。A氏は京都ユニオンに相談し、’13年11月に提訴にふみ切った。
「ツラい体験を思い出してしまい、いまでも包丁を握れません。私を気づかうあまり妻まで無口になってしまいました」
 仁和寺の広報担当者の反応は「何も回答できる状況にございません」と冷たいが、京都地裁の堀内照美裁判長は「尋常でない過酷な業務だった」と断じた。
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A氏が療養中の’12年11月に支配人から届いた文書。言葉は丁寧だが退職を勧めている
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A氏が作っていた料理の一例。評判が高くリピーターの客も多かった
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料理人歴38年のA氏。「裁判に勝っても心身は元に戻らない」と憤(いきどお)る
PHOTO:加藤 慶
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