新連載 斉藤和巳の「エース脳」マウンドから見たドラマの裏側 第2回 先発投手に立ちはだかる「5回の壁」

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今村は今季8試合に投げて「5回の壁」は5度突破したものの、「6回の壁」を破ったのは2回だけ(5月16日現在)
 先発投手が白星を手にするためには越えなければならない壁があります。チームがリードしていれば勝利投手の権利がかかる「5回の壁」。ファンの方もよく耳にする言葉だと思いますが、とくに若い投手にとっては目に見えない大きなハードルです。今季も、巨人の今村信貴(のぶたか)投手(22)が2試合続けて5回に四死球を連発。「あとワンナウト」が取れず降板して話題となりました。
 ここを越えなければエースへの道も見えてこないわけですが、経験が浅いうちは「先発させてもらう以上は5回までは投げないといけない」という心理が働く。いまは分業制が確立されているので、よけいにその意識が強いと思います。勝ちたいという気持ちに加え、「最低でも5回は投げないと次のチャンスはないかもしれない」とのプレッシャーで投球に影響が出るのです。
 僕も実績がない若手のころは5回までが、とにかく長く感じました。二軍で投げているのとはプレッシャーが違う。肉体的疲労に加え、精神的にもかなり疲れます。5回を意識して「抑えないと」と力(りき)めば力むほど、球威は落ち、制球も乱れるのです。
 では、どうやって乗り越えたか。
 僕の場合は、何試合先発したとか、何度5回を投げ抜いたかではなく、打者のボールへの反応や、空振りの仕方を見て、「次はこのコースに、このボールを投げておけば大丈夫や」と判断できるようになってから、「5回」を意識せずにピッチングできるようになりました。今村投手は140㎞台のまっすぐとブレーキのきいたカーブが投球の軸ですが、まだまだ「自分の投球のパターン」が少ないんでしょうね。
 そして――先発投手には「5回の壁」のほかにもうひとつ、ヤマがある。直後の6回にも「壁」があるんです。個人的には6回がもっとも難しいイニングだと感じていました。好投していても相手の打線は3巡目を迎えます。打者は3打席目になるとボールにかなり慣れてくる。その"変化"に気づき、配球を変えるなどの対応をとれない投手が打たれるケースが多いのです。
 さらにホームゲームのときには落とし穴があって、それは5回終了後のグラウンド整備。6回表の投球までほんの数分とはいえ、試合の流れが一旦、落ち着き、5回を投げ切った安堵感で集中力が薄れてしまい、打ち込まれるケースが多々あるのです。
 それを防ぐため、僕は「いつもどおり」に徹しました。たとえば「外野スタンド側に控え捕手を立たせてキャッチボールをする」というルーティン。少し時間があるため、試合に出ている捕手とキャッチボールできるケースもあるのですが、それを避けました。普段と逆向きにキャッチボールをすると、景色が変わってしまう。些細(ささい)なことと思われるかもしれませんが、そのちょっとの違いで気持ちに変化が生まれ、ピッチングに影響が出るのです。
 5回と6回の壁の破り方は人それぞれですが、勝つためには投手はどこまでも繊細であるべきだと思います。
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さいとう・かずみ/’77年京都府生まれ。プロ通算79勝23敗、勝率7割7分5厘。右肩の故障に泣かされながらも「負けないピッチング」で沢村賞を2度受賞。太く短く生きたホークス伝説のエース
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