連載 斉藤和巳の「エース脳」マウンドから見たドラマの裏側 第7回 巨人 菅野が強力ホークス打線を唸らせた「至高の3球」

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敗れはしたが、菅野は強打のホークス相手に2失点完投(6月10日)。交流戦を終えてなお、防御率は0点台だ
 6月10日、ソフトバンク対巨人戦で解説を務めさせていただいたのですが、久々に投球に見入ってしまいました。
 ここまで防御率0点台を誇っている巨人・菅野智之(26)。彼の持ち球であるストレート、カーブ、スライダー、ワンシームはすべて勝負球にできるほどクオリティが高く、投げたいところに投げられる制球力も持っています。しかも1球、1球に意味が感じられるクレバーな投球術も兼ね備えている。フィールディングや牽制(けんせい)も上手ですし、現在の日本球界のエースは彼だと言って間違いないでしょう。
 この試合で僕が目を見張ったのは、巨人が0対1でリードされた5回裏一死満塁の場面です。打者は3割を打って当たり前になっている好打者の内川聖一(33)。タイムリーが出れば一気にソフトバンクに主導権を握られてしまうところでした。
 初球は真っ直ぐが外れてボール、2球目はやや抜けたスライダーを内川が空振り。3、4球目はファウル。ここからの3球が凄(すご)かった。カウント1ボール2ストライクからの5球目、捕手の小林誠司(27)が外角低めに構えたミットが動くことなく、ストレートが吸い込まれました。
 素晴らしい球でしたが判定はボール。内川も「手が出ませんでした」と振り返るほど際どい球でした。ただ、あまりにいい球だったことで、次が難しくなった。満塁で押し出しが怖いから、フルカウントにはしたくない。続けて外角に速球を投げるとしても、前の球より内側に入れなければならない。とはいえ、制球が甘くなれば、痛打されてしまう。普通なら、球種を変えたくなるところです。アウトコースにスライダーか、シュート系の変化をするワンシームをインサイドに持ってくるのか――僕はそう予想していたのですが、菅野はもう1球、外にストレートを投げ込んできました。
 前の球よりやや高かったのですが、コースはまったく同じ、いや、ボール3分の1個分、内側に入っていたように見えました。これも判定はボールでしたが、審判によってはストライクを取ったかもしれないと思うほどの見事な1球でした。
 これでフルカウント。ボールになれば押し出しです。ほとんどの投手がストライクゾーンに投げようとするでしょう。しかし、ここでも菅野に驚かされました。見逃(みのが)したらボールかな、というところへスライダーを投げてきたのです。内川は泳ぎながら打たされてショートフライ。たまたまではない。菅野にとってイメージ通りの球だったはずです。続く長谷川勇也(31)も三振でピンチを切り抜けました。試合は1対2で巨人が敗れましたが、ソフトバンクの打者は皆、「久々に『そう簡単には勝てない投手』だと感じた」と舌を巻いていました。
 技術、頭脳、勇気、覚悟。すべてが備わった3球。要所でこんな高度な投球ができる投手は現在の日本球界では菅野しかいないと思います。皆さんにもその至高の投球を是非とも見てもらいたいですね。
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’77年京都府生まれ。プロ通算79勝23敗、勝率7割7分5厘。右肩の故障に泣かされながらも「負けないピッチング」で沢村賞を2度受賞。太く短く生きたホークス伝説のエース
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