連載 斉藤和巳の「エース脳」マウンドから見たドラマの裏側 第10回 3球勝負のススメ

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メジャーリーガー相手にも3球勝負を挑む前田健太。前半戦8勝とドジャースでもエースに!
 ポン、ポンと2球で打者を追い込んで、次の1球は外角のボールゾーンにストレートを投げる。プロ野球でもアマチュア野球でもよく見かけるセオリーのひとつです。僕も現役時代、0ボール2ストライクになったらひとつ外にボール球を投げるのがチームの暗黙の了解になっている時期がありました。ベンチとしては投手有利なカウントで打たれるのが嫌だったんでしょう。もちろん投手だって、それは避けたい。ですが、僕はずっと「とりあえず外にはずす1球ってなんや?」と疑問を感じていました。
 理由が見当たらず、松中信彦さんら先輩打者たちに聞くと、「その1球で打者はすごく楽になれる」と皆さん口を揃(そろ)えました。簡単に追い込まれてしまったのに、ひと呼吸置く時間を持てますし、次の勝負球が難しいアウトコースの球だとしても、その前のボール球より内側に入ってくるので、甘いボールに見えると言うのです。
 若いときは外にはずすボールすら目一杯投げていましたが、疑い始めてからは力を抜いて投げるようになりました。明らかにボールにするので打者が振ってくれる可能性はほぼない。とくに僕は右肩に爆弾を抱えていたので、ムダな球は1球たりとも投げたくなかったですから。
 では、3球勝負はすべきではないのか?
 僕は「当然あり」だと思います。
 6月30日のDeNA戦で阪神の江越大賀(23)が3球三振して金本知憲監督にカミナリを落とされたことがニュースになっていましたが、打者心理を考えればツーナッシングは、もっとも追い込まれた状況です。打ち損じの可能性も高くなる。一流と言われる3割打者でも7割は失敗する。精神的に追い込まれれば、力(りき)みもありますから、3割どころか2割打つことも難しくなる。江越のような若手であれば、なおさら打てる確率は下がるでしょう。意味なく1球はずせば打者の気持ちにゆとりができる。わざわざ打者を楽にする必要はないのです。
 僕は空振りを取れるフォークを持っていたこともあって、実績を積んでチームの信頼を得てからは、どんどん3球勝負をしていました。試合展開や調子、相手打者との相性によっては、勝負球の伏線となるボール球を投げて様子を見ることもありましたが、1、2点リードしていてピンチを迎えた場面では、積極的に3球勝負を挑(いど)みました。「打って追いつかなければ」と打者がもっとも重圧を感じるシチュエーションだからです。そんな大事な場面こそ慎重に行ったほうがいい、という意見もあるでしょうが、どんな状況だって打たれるリスクはある。ならば、度胸は要(い)りますが、どんどん3球勝負したほうが打ち取れる確率は上がるのです。しかも、3球勝負をすれば球数が減る。そうなれば、長いイニングを投げられる確率も上がります。
 セオリーを鵜呑(うの)みにするのではなく、きちんと理解したうえで疑い、よりよいものを探る。エースにはそんな発想も求められると思います。
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さいとう・かずみ/’77年京都府生まれ。プロ通算79勝23敗、勝率7割7分5厘。右肩の故障に泣かされながらも「負けないピッチング」で沢村賞を2度受賞。太く短く生きたホークス伝説のエース
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