連載 斉藤和巳の「エース脳」マウンドから見たドラマの裏側 第12回 実は、けん制球なんていらない

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始動からボールが捕手のミットに届くまでが1.2秒なら合格と言われる中、DeNA・久保のクイックは1秒を切る

 足の速い走者を一塁に置いて、投手が何度もけん制球を投げる――「そんなに続ける必要があるのか」と疑問に思ったことはありませんか? けん制球は基本的には捕手からのサインで放ることが多く、無死一塁だと100%近くサインが出ます。走者の反応を見て相手の作戦を見極めたいという捕手の気持ちはわかりますが、僕はプレートを外したり、投げるふりをするだけで、極力、けん制をしませんでした。

 なぜか。けん制球を投げるときの動きを走者に見られたくなかったからです。もし動きにクセがあって相手にバレてしまえば、走者は格段に走りやすくなる。けん制球を投げれば投げるほど走者はスタートを切りづらくなると思われがちですが、僕はむしろ逆にとらえていました。

 そもそも僕は、マウンド上から左肩越しに一塁走者を見ようとしても、首が回らないのか、視野が狭いのか、見えなかった。見えない一塁走者を背中越しに気にするより、二塁に行かれて自分の目で確認するほうがかえって楽だとも感じていたのです。ちなみにロッテのスタンリッジ(37)も、左肩越しでは一塁走者が見えないらしく、首を回して右肩越しに見ています。同じ悩みを抱えている投手は少なくないのです。

 ならば、DeNAの久保康友(35)のように1秒を切るようなクイックモーションを身に付けられればよかったのでしょうが、僕の場合、クイックで投げると意識が走者に行ってしまい、肝心のフォームが崩れて球速が落ちてしまうのです。

 けん制もクイックも苦手な僕は、ホークス時代のチームメイト、川﨑宗則(35・現カブス)に「ピッチャーがカズ兄なら10回走って10回とも二盗を成功させられますよ」とまで、言われてしまいました。

 たとえランナーにセカンドまで行かれても、後続を断ってホームに還さなければいいのですが、盗塁阻止はバッテリーの共同作業。捕手の評価に関わってきますので、何も手を打たないわけにはいきません。

 では、どうすればいいか。

 ヒントになったのは川﨑の「走者はピッチャーの足や肩といった『どこか』の部分ではなく『全体』を見ている」という言葉です。「けん制、けん制」とつぶやきながら、けん制球を投げそうな雰囲気を背中から出せるよう、練習しました。いわば、「背中での威圧」です。他にもボールを持つ時間を一球ごとに変えたり、いろいろ工夫して、盗塁企画数を減らすことができたのです。ここぞという場面では投球前に一塁走者をニラみつけました。片岡治大(やすゆき)(33・現巨人)が西武にいたころ、「めっちゃ、ニラんできますよね」と言われたことがありますが、相手にそういう印象を残せていただけでも意味があったのかなと思います。

 僕の発想は定石と異なったり、リスクと隣り合わせのものが多いのですが、だからこそ、人と違う場所まで行けたと思っています。常識や安心を捨てる勇気も、エースには持っていてほしいものの一つです。

斉藤和巳の「エース脳」
さいとう・かずみ/’77年京都府生まれ。プロ通算79勝23敗、勝率7割7分5厘。右肩の故障に泣かされながらも「負けないピッチング」で沢村賞を2度受賞。太く短く生きたホークス伝説のエース
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