連載 斉藤和巳の「エース脳」マウンドから見たドラマの裏側 第13回 なぜルーティンが重要なのか

連載 斉藤和巳の「エース脳」マウンドから見たドラマの裏側 第13回 なぜルーティンが重要なのか 画像1
イチローは試合前の準備、打席内での動きのみならず、食事でもルーティンを守っている

 メジャー通算3000本安打――これはイチローさん(42・マーリンズ)が長い間、「自分がやるべきこと」を淡々と積み重ねてこられたからこその偉業です。

 消化試合であっても、ワールドシリーズの一戦であっても、イチローさんの「やるべきこと」は変わりません。プレイボールの4時間前からグラウンドに出て、たっぷり柔軟運動。屈伸して、すくい上げるような素振りをしてから打席に入り、ピッチャーに向けて右手1本でバットを立てる。ファンならずともおなじみの光景ですね。

 最近だと、ラグビーW杯で日本代表の五郎丸歩選手がキックの前に行う“五郎丸ポーズ”が話題となりました。一見、たいして意味のない行為に見えますが、なぜアスリートは「ルーティン」を大事にするのか。

 実は僕もルーティンを重要視していました。試合前のキャッチボールの相手は常に同じトレーナーさん。同じ人とキャッチボールをすること自体は珍しくないですが、僕の場合はキャッチボールをする場所、ウォーミングアップを終えて、グラブを手にしてすぐというタイミングも常に同じ。

 その後のブルペンでの投球練習も、常に同じブルペン捕手に受けてもらいました。

 ブルペンでの投球にも流れがあります。アウトコースへ真っ直ぐとカーブを3球ずつ。インコースにも真っ直ぐ、カーブを3球ずつ。同じようにセットポジションで投げてから、フォークをアウトコース、インコースにそれぞれ2球。最後に「カーブと真っ直ぐ行きます」という決まり文句で1球ずつ投げて締めます。途中、納得ができないボールがあれば「もう1球、行きます」と声をかけて投げ直す。ブルペン捕手はルーティンを覚えているので、「もう1球」コールがなければ、何も言わなくても次のボールに合わせて構えてくれます。

 ホークスの攝津正(34)の場合、右打者の内角低めが彼にとっての“原点ゾーン”で、そこから投球練習を始めるのがルーティンだと聞きました。人によって違いますが、同じ流れで試合に臨むことで、余計なことを考えずにすむというメリットがあるのです。ちなみに僕の場合、「ブルペンで荒れているほうが試合では良い投球をする」という傾向があり、ブルペンでの投球が良かった日は、早めにリリーフ投手たちが準備を始めていたそうです(笑)。

 もちろん、ルーティンが崩れる日もありました。そのときは「野球の神様に試されている。乗り越えたらもっと強くなれる」と考える。「ルーティンが崩れたから負けました」ではエースは務まりません。ルーティンに縛られ過ぎてもいけないのです。

 どれだけ勝てていても、当の本人は安心できないもの。「いつも通りに試合に入る」ことはメンタル的に重要です。だからこそ、イチローさんも僕も大事にしていました。ルーティンをいかにうまく使うか。エースに求められる重要な能力です。

斉藤和巳の「エース脳」
さいとう・かずみ/’77年京都府生まれ。プロ通算79勝23敗、勝率.775。右肩の故障に泣かされながらも「負けないピッチング」で沢村賞を2度受賞。太く短く生きたホークス伝説のエース
あなたにオススメ

FRIDAY GOLD

10月18日発売
friday gold