女子レスリングの"虎の穴" 至学館「強さの秘密」

6階級で金4&銀1、吉田沙保里も伊調も登坂もここで強くなった!
女子レスリングの
 土性沙羅(どしょうさら)(21)が残り30秒から、伊調馨(いちょうかおり)(32)が残り5秒から、登坂絵莉(とうさかえり)(22)に至っては残り2秒での逆転金メダル。
 この結果に日本女子レスリングの強さが凝縮されていた。全6階級で金を4つ、銀が1つ。世界の頂点をほぼ独占した最強の選手たちを輩出したのが、名古屋市の南部に位置する至学館大学(愛知県大府市)である。
 学長は谷岡郁子(62)。祖父は大阪商業大学創設者の谷岡登、父は神戸芸術工科大学創設者の谷岡太郎という名家の出だ。’07年には、愛知選挙区から参議院選挙に出馬し当選。亀井亜紀子らと新会派『みどりの風』を結成し、脱原発を訴えた。レスリング部は至学館の前身・中京女子大時代の’89年に谷岡学長が創設。「最初はマットもなく、芝生で練習していました」(スポーツライター・宮﨑俊哉氏)。
 ’92年、坂本涼子が世界選手権で優勝したが、至学館が本格的に女子レスリングの"虎の穴"と化したのは、栄和人(さかえかずひと)(56・現日本レスリング協会強化本部長)の招聘(しょうへい)がキッカケだった。
「栄は奄美大島の出身。鹿児島商工高(現樟南)時代は100戦無敗を誇ったそうです。日体大、奈良県職員、京樽を経て’96年に至学館高校の前身・中京女子大附属高校の教師となりました。『指導は恋愛と一緒』がモットー。文字通り365日、選手を見ています。レスリング協会の外せない用事があるときは、用事が終わった後に練習させる徹底ぶり。講演会でのテッパンネタは『ガツガツいかないと選手は振り向いてくれない。ガツガツいきすぎて、教え子に手を出してしまいましたが』。実際、栄さんはコーチしていた坂本涼子と結婚しています(後に離婚。長女は’15年全日本女王の栄希和)」(夕刊紙デスク)
 八戸工大第一高の坂本日登美(ひとみ)をスカウトして’00年に世界王者に育て上げると、栄は大学の職員となり、レスリング部コーチから監督に昇格した。
「選手たちは栄監督の指導を高校・大学を通じて7年間、受けられる。後伸びする選手も多いため、長期指導のメリットは計り知れない」(至学館の教師)
 登坂もその一人だった。9歳でレスリングを始め、中学のときに全国制覇。憧れの吉田沙保里(33)がいる至学館の門を叩いた。だが、周りは栄や吉田を慕って全国からやってきた猛者(もさ)ばかりで、まるで歯が立たない。卒業後は故郷・富山に帰って、就職するつもりだった。
「高校時代はハッキリ言って、埋もれていました。同級生の中でも3〜4番手だったんじゃないかな。彼女が頭角を現したのは、一念発起して至学館大に進学してからです」(登坂の同級生)
 厳しさは、強さの裏返しでもある。至学館では高校、大学、OBの社会人30名近くが一緒に練習する。高校の授業開始前にランニング中心の朝練を1時間、放課後の午後3時からはマットで約3時間。連続で2〜3本スパーリングする合間にマット脇でウエイトなどのトレーニングをする。栄が「気合が入っていない」と判断すれば、日付が変わっても終わることはない。大学近くにある寮は門限が厳しく、最寄り駅から離れているため、まさにレスリング漬けの毎日だ。
 だが、弱音を吐く者はいない。生きた最高の手本、吉田が身近にいるからである。吉田の父・栄勝(えいかつ)さんのレスリング教室でタックルを学び、彼女を目標に至学館入りした土性は当初、あまりの辛さに、泣きながら母親に電話したこともあったという。だが、グッと耐えた。「一番強い人が率先して声を出し、誰よりも練習しているわけですから」
「狂え!」
 湯気の立つ道場内に栄の怒声が響く。
「大きな目標を達成するためには狂ったように練習に打ち込むことも大切――栄さんはそう言って、女子選手であろうと追い込む。至学館出身の選手たちが最後の1秒まで攻め続けられるのは、監督が心も強化しているから」(前出・宮﨑氏)
"虎の穴"を仕切る栄が言う。
「練習のときから意識して、『負けてるぞ』、『逆転しろ!』、『残り時間が少ないぞ!』と声掛けをしています。普段からプレッシャーをかけないと心は強くならない。ただ、本人だけでは限界がある。指導者が本気で追い込まなきゃいけないのです。そうやって追い込まれた先輩が結果を残す姿を見て、後輩たちは『私も頑張らなきゃ』と思うようになる。この至学館の化学反応は、なかなかマネできないですよ」
 強くなりたければ至学館――女子レスリング界の合い言葉である。
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至学館が輩出した金メダリストたち。上から69㎏級の土性、58㎏級の伊調、48㎏級の登坂、63㎏級の川井梨紗子
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至学館のマット上で登坂を担ぎ上げる土性。道場の壁には吉田沙保里のメッセージが掲げられていた
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リオ五輪のレスリング会場で選手たちに声援を送る谷岡学長(右)と栄監督(谷岡学長のSNSより)
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至学館大では他の部の生徒も集まってパブリックビューイングで女子レスリングを応援するのが伝統
PHOTO:川柳まさ裕(5枚目) 佐藤茂樹(一番下) JMPA
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