連載 斉藤和巳の「エース脳」マウンドから見たドラマの裏側 第29回 打者・大谷翔平の「初球打ち戦術」

連載 斉藤和巳の「エース脳」マウンドから見たドラマの裏側 第29回 打者・大谷翔平の「初球打ち戦術」 画像1
323打数で22ホーマーと長打力も主力級。ついに球団は来オフの渡米を容認した。この男に日本は狭すぎる
 パ・リーグのMVPは、日本ハムの大谷翔平(22)が選ばれました。昨季は振るわなかった打者としても才能を開花させ、投手と打者(DH)のダブルでベストナインに選出されたのだから、凄(すご)いのひと言です。
 スイングスピードの速さ、逆方向への打球の飛距離など、打者・大谷の凄さはこの連載でも触れましたが、少し前にスポーツ新聞で目にした彼の打撃観に関するコメントにも驚かされました。
「初球から打ちに行ってボール球なら見送る。その中で打てるボールをチョイスする。そのほうが投手はイヤだから」
 という内容でした。
 一見、当たり前のように感じますが、たとえば150㎞のボールが投手の手から離れて打者のミートポイントに来るまでコンマ5秒もない。キレのいい変化球がくる可能性も頭に入れて、どちらにも対応するのは容易ではありません。
 初球から打っていく打者は少なくありませんが、球種やコースを絞っている場合がほとんど。大谷がコメントどおりに初球から打ってくるなら厄介です。なぜなら、投手にとって初球というのは非常に考えを巡らせるものだからです。
 あの江夏豊さんも「決め球より初球の入りが一番難しい」とおっしゃっていたと聞きます。入りをどうするのかというのは、いまも昔も変わらない投手の難題です。
 投手心理としては常に先手、先手、ストライク先行で進めたい。しかし、初球から厳しいコースに投げてしまうと、後が苦しくなる。初球がストライクゾーンギリギリのストライクだと、次の球が初球より少し中に入ってきただけで、打者には甘いボールに見えてしまうからです。ワンストライク、ツーストライクとカウントが進むごとにゾーンの外に広がっていくように投げるのが理想です。なおかつ、バッテリーは初球に対する打者の反応を観察して、その後の攻めを考えたい。2球目以降より考えることが多いから、難しいのです。
 ヤマを張ってくる打者もイヤですが、それぞれ、傾向があるので、対策は講じやすい。しかし、大谷のようなスタンスで初球から狙ってこられたら、慎重にならざるを得ないですね。
 僕ならば――ボールを先行させたくないですが、痛打を喰らうわけにもいかないので、ストライクからボールになる球で入って、空振りやファウルが取れればラッキー。状況にもよりますが、そういう入り方をすると思います。僕が現役のころで言えば、城島健司さんが大谷と同じタイプでした。相手投手は初球からストライクを取りにいきづらく、不利なカウントを作らされてしまうことが多かったですね。
 大谷のコメントの最後に「そのほうが投手はイヤ」とあるように、二刀流をやっているからこそ、感じられている部分もあると思います。同じ発想の打者はいるでしょうけど、大谷は投手目線で考えられる。彼しかできない経験を生かしているのです。
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さいとう・かずみ●’77年京都府生まれ。プロ通算79勝23敗、勝率7割7分5厘。右肩の故障に泣かされながらも「負けないピッチング」で沢村賞を2度受賞。太く短く生きたホークス伝説のエース
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