連載 斉藤和巳の「エース脳」マウンドから見たドラマの裏側 第31回 真っ直ぐの「キレ」とは何か

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身体でボールを隠す独特のテークバック。和田の直球は日ハム・大谷翔平の160㎞と遜色ない
「球にキレがあって、スピードガン表示以上に速く感じる」
 真っ直ぐの「質」に関して、よく耳にする表現です。打者にとって打ちにくいストレートとは、どうやって生み出されるのか。
 今季、パ・リーグの最多勝を獲得したソフトバンクの和田毅は、その最たる投手と言えます。球速は140㎞前後なのに、空振り率は約11%と12球団トップクラス。楽天のルーキー、オコエ瑠偉もテレビ番組で「和田さんはヤバい」と、タイミングが合わないことに脱帽していました。和田の場合、あのコンパクトなテークバックに秘訣があります。投手はモーションを起こしてから、できるだけ打者に球を見せないようにしたい。和田も打者から見て、球が自分の身体に重なるよう隠してトップまで持っていく。ギリギリまでボールが見えず、いきなりピュッと投げ込まれるために、打者は球速表示より速く感じるのです。
 ボールの回転数が高いと揚力が働いてホップしているように見えます。重力があるので実際に浮き上がったりはしないのですが、ほかの投手よりも沈みが小さいため、目の錯覚で浮き上がるように見える。全盛期の阪神・藤川球児が投げていた「火の玉ストレート」の回転数は1秒間に45回転だったそうです。平均は30〜40回転ですから、かなり浮き上がって見えたでしょう。
 僕は現役時代、回転「数」を気にしたことはありませんでしたが、スピンを利(き)かせることは意識していました。きれいな縦回転をさせたほうが、揚力につながる。ですから、大前提として上から投げおろすタイプの投手のほうが打者にボールのキレを感じさせやすいと思います。
 リリースも大切です。「切る」とか「叩く」とか、投手によって表現の仕方もさまざまです。藤川は「押し込む」、楽天の則本昂大は「潰(つぶ)す」と言っているそうですね。僕は「指で押し込みながら切る」というイメージを持っていました。球を放すときに手首をパーンと返すのではなく、グーッと長く持って最後の最後にパチン! という感じでスピンをかける。
 この感覚は高校時代に身につけました。当時、僕は遠投が好きで、毎日、山なりではなく、低い球筋でどこまで投げられるかを同級生の投手と張り合っていました。最後の最後までボールを持ってリリースしないと遠くまでいかない。力まかせに投げるとシュートして最後は垂れてしまう。その感覚を身体で覚えたのです。
 もちろん、ボールのキレや伸びがそこまでなくても球速が150㎞台半ばを超えてくれば打者には十分な脅威です。ただ、それができるのは外国人選手など、体格に恵まれた投手が多い。和田は大学時代から試行錯誤を繰り返して現在のフォームの原型を作った。プロ入り後も、生き抜くため、エースになるために磨き上げた。その賜物(たまもの)が「キレのある」ストレートなのです。
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さいとう・かずみ●’77年京都府生まれ。プロ通算79勝23敗、勝率.775。右肩の故障に泣かされながらも「負けないピッチング」で沢村賞を2度受賞。太く短く生きたホークス伝説のエース
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