連載 斉藤和巳の「エース脳」マウンドから見たドラマの裏側 第32回 現代プロ野球「最強のボール」

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千賀のフォークはテレビ番組の企画「プロ100人が選ぶ部門別1位」でも変化球1位に選ばれた

 いまの日本球界において、打者がもっとも嫌がる球はどの投手の、どのボールか。

 2017年の最初のコラムは僕が考える「最強の球」について話しましょう。

 条件としては、ここぞという場面で空振りが取れること。最近はカットボールやツーシームなど、バットの芯を外すことを目的としたストレート系の「動く球」が全盛ですが、バットに当てられれば打ち取ってもヒットにされる可能性がありますし、味方のエラーで失点につながることもある。空振りが取れる球があると捕手はリードが楽です。打者も追い込まれたくないから、心理的プレッシャーを受ける。そうした観点から絞ってみました。

 打者にとって速い球というのはやっぱり嫌ですから、日本ハム・大谷翔平の160㎞を超えるストレートも候補として考えました。ただ、糸井嘉男(オリックス→阪神)が大谷の164㎞を弾き返したように、ストレートのタイミングで待てば対応されやすい。

 そういう意味では変化の大きな球が候補になりますね。それも曲がればいいわけではありません。早くから変化し始めてしまうと見送られてしまいますから、打者の手元で変化する球でなければならない。

 その条件を満たすボールの中から選んだのは、ソフトバンク・千賀滉大(こうだい)の「お化けフォーク」です。

 実は巨人・菅野智之のスライダーと悩みました。ほとんどの投手が投げるスライダーは斜めに曲がりますが、菅野は横滑りしているイメージ。しかも腕の振りが鋭いからしっかり変化して、球の曲がりも遅い。打者は直球に見えてしまう。なおかつコントロールもいいですから厄介です。ただ、スライダーとなると大谷も曲がりの鋭い球を投げている。楽天・則本昂大(たかひろ)もいい。

 しかし、フォークとなると12球団を見渡しても千賀が抜けている。あれだけの落差は佐々木主浩さん以来じゃないですかね。最初にちょっと浮いてから大きく落ちる。

 千賀のフォークの握りは独特です。球の縫い目がないところを人差し指と中指で挟む人が多いですが、千賀は人差し指だけ縫い目に沿うようにかけている。なぜ、そうするのか。彼の言葉を借りると、しっかり制球するために指で「壁を作りたい」からだそうです。フォークで一番いいのは真下に落ちることなのですが、うまく球を抜けず横回転がかかってしまうことがある。それを防ぐために、人差し指をかけているそうです。佐々木さんも似た挟み方をしていました。

 僕も若いときに同じ握りを試したことがありますが、千賀のようには落ちませんでした。投球フォーム、腕の振り、球を挟む深さ、球持ちの良さなど、様々な要素がかみ合って「お化けフォーク」が生み出されているのです。落差は佐々木さん級ですが、精度や制球面はまだまだ。さらに磨きをかけてもらいたいですね。

斉藤和巳の「エース脳」
さいとう・かずみ●’77年京都府生まれ。プロ通算79勝23敗、勝率.775。右肩の故障に泣かされながらも「負けないピッチング」で沢村賞を2度受賞。太く短く生きたホークス伝説のエース
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