福岡ソフトバンクホークス 武田翔太「異能のエース」

色彩豊かな食事を自分で作り、
部屋にはドラムセット、宅建問題集が並ぶ
この男、ピッチングも私生活も超独特だ!
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中学時代から140㎞台の真っ直ぐを投げていた武田。一方で成績は常にトップクラス。特進コース入りを薦められたこともあるという
 武田翔太(23)ほど「走り込む」野球選手をほかに知らない。ほぼ毎日、10㎞のランニングを欠かさない。先発した日でも、試合が終わってから走っている。
「下半身の強化はもちろん、全身が強くなりました。最近、200㎏の重りを担(かつ)いでスクワットができるようになったんです。プロ入りしたころは60㎏しか持ち上がらなかった。当時と体格は変わっていません。筋肉の質が良くなったんです。筋肉は大きさじゃなくて『出力』です」
 昨季、自己最多となる14勝を挙げて、2年連続で二ケタ勝利をマークした。オフの契約更改では「1億円プレーヤー」の仲間入りも果たした。23歳の若さでホークスのエース格となった武田は、故障で辞退した大谷翔平(日本ハム)に代わる侍ジャパンの"救世主"としてWBCにも出場している優等生だ。だが、この若き右腕、ただの好投手ではない。彼には「別の顔」があるのだ。
「球場を離れれば、僕はスイッチを切り替えます。野球選手とはまったく別の自分になるんです」
 ピンチを迎えてもけっして崩さない、特徴的な笑みを浮かべながら、武田が自宅の写真を見せてくれた。
 まるでミュージシャンのごとくドラムを叩き、ソファに座ってギターをかき鳴らす。音楽好きの友人を招いて、セッションするのも楽しみのひとつだ。
 ピッチャーはケガ予防のため、包丁を握らないのが常だが、武田はほとんど外食をせず、ナイターの後も台所に立つ。
「音楽に関しては趣味。だけど料理は真剣ですよ。栄養学を一から勉強しました。プロ2年目、右肩を故障して病院で診(み)てもらった時に、先生の説明を理解できなかったんです。自分の身体のことなのに、僕は何もわかっていなかった。それが悔しくて、栄養学や人体解剖学の本を買い漁(あさ)って勉強しました」
 パプリカのサラダや、根菜のスープなど、身体に優しい、彩り豊かな品々が毎晩、武田の食卓に並ぶ。
 自宅ではパソコンに向かう時間も多い。対戦相手の打者や、自身のフォーム研究のためにも使うが、オリジナルのロゴを生み出すためにも使われている。武田はデザイナーとしての顔も持つのだ。
「デザインの仕事にはずっと前から興味があって、中2のころからパソコンをいじっていました。自分の力で何かを作り上げることに興味があったんです。当時は起業家になるのが夢でしたから」
 栄養学はともかく、ロゴデザイナーが野球と、どうつながるのだろうか。
「まったくつながらないです。でも、だからイイんですよ」
 武田は大真面目な顔で語り始めた。
「僕は野球だけの人間になりたくないんです。『武田―野球=0』じゃつまらない。プロに入団した時から、そう思っていました。プロ野球選手の"平均寿命"、知ってます? たった8年ですよ。もちろん、長く現役をやるための練習や研究は怠(おこた)りません。それでも、ケガして、若くして引退するリスクはゼロにできない。いつ、その時が来ても困らないよう、準備をしているんです」
 本棚には栄養学のほか、『行政書士』、『宅建』といったタイトルの書籍も並ぶ。移動の多い野球選手は車内では寝て過ごす場合が多いが、武田は本を読む。
 一方で、球界では異端児と扱われ、「野球に集中しろ」と意見されることもある。
「僕は別の顔を持っているからこそ、不安なく野球に集中できているんです。野球はメンタルが大事なスポーツですが、それはマウンドの上に限ったことではない。練習でも試合でも、『この世界でしか生きられない』と追い込まれた状態より、『野球がダメなら別の道がある』と余裕を持って取り組むほうが、僕にはプラスに働くんです。賛否両論あると思いますが、僕が右肩痛を乗り越えて、いま、こうしてプレーできているのは、この考え方があったからこそ」
 考えてみれば、武田のピッチングスタイルも実に独特だ。186㎝の長身から投げ下ろす最速154㎞の直球を持ちながら、力勝負は好まない。「魔球」とも称される縦に大きく割れるカーブが主な武器だ。
 打者との駆け引きも独特で、筆者がプロ1年目の武田をインタビューした際、彼はこんな「感覚」を口にしていた。
「マウンドから必ず見るのは打者の表情。顔を見れば、何を考えているかがわかります。あとは打者から出るオーラですね。どんな球を待っているのか、どのコースが苦手なのか、オーラを見ればピンとくる。直感的にわかるんです」
 あれから5年、あの「感覚」はまだあるのか、それとも、進化しているのか。
「あの時と変わりませんね。ただ、打者の視線も観察するようにしました。人間の意識は必ず目に表れる。無意識に待っているコースに視線を送る。だから僕は、相手の無意識を突くんです。最近の理想の打ち取り方は、左打者の外角にまず、ボールからストライクになるカットボールを投げる。2球目は同じライン――1球目が通った軌道上にストレートを投げるんです。バッターの視線には1球目の軌道が焼きついていますから、必ず打ちに来ます。ただ、今度は曲がってこないので、バットの先っぽに当たる。『グシャ』という当たりになって内野ゴロ。2球でアウトというのが最高ですね」
 三振の山を築くとか、誰にも負けない速い球を投げるとか、若くてイキのいい投手が語るような台詞は一つも出てこない。武田は唯一無二の選手なのか、それともただの変わり者なのか。
「変わり者でけっこうです。だって、普通の人間は普通のところにしか辿(たど)り着けないでしょ。変わり者は、他の人とは違う世界へ行けると思っていますから」
 不確定要素が多すぎる国際大会において、武田ほど頼もしい投手はいない。
取材・文/田尻耕太郎(スポーツライター)
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これが武田のマイ・ドラムセット。オフにイベント出演する際にはギターケースをお供に連れて行くこともあった
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登板や体調に合わせて献立を考える。腕を見込まれてTVの料理バトル企画に出たことも
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