連載 斉藤和巳の「エース脳」マウンドから見たドラマの裏側 第40回 ブレイクスルーの「瞬間」

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原口がブレイクのキッカケをつかんだのは昨年4月19日。それから約1週間で支配下選手登録を勝ち取った

 入団以来、なかなか結果を残せなかったものの、きっかけをつかんで一気に才能を開花させる選手がいます。かく言う僕も一軍に1シーズンいられたのは20勝を挙げた’03年が初めて。ドラフト1位で入団してから8年が経っていました。

 当時のホークスには山村路直(みちなお)、山田秋親(あきちか)、寺原隼人に杉内俊哉と、毎年のようにドラフトの目玉が入団。彼らがメディアの注目を集め、球団も積極的に売り出しているのを見て、自分の居場所がどんどんなくなっていくのを感じました。のんびり屋の僕でも正直、怖かったですね。「変わらなければ」と’01年のシーズン後のオフに一念発起。「あらためて自分という投手を知ろう」と先発した試合のビデオを持ち帰り、大きめのノートの1ページを9分割して1球、1球、書き出し、チャートにしました。

 一歩引いたところから自分のピッチングを見てみると、あることに気づきました。

「ちゃんと打者のインサイドを突けている時は好投している。打者が甘い球を打ち損じるケースが増えている」「カーブが使えている時は、真っ直ぐはもちろん、フォーク、スライダーで打者を抑えられる確率も上がる」――自信のある真っ直ぐが基本であることは変わらないが、投球の中で大事にしなければいけないのは、インサイドの使い方とカーブなんじゃないか?

 それまで、投手コーチから同じようなアドバイスを何度ももらっていましたが、自分で自分を分析したことで、そんな「仮説」がストンと自分の中に落ちたんです。

 翌日から内角の球とカーブの精度を上げる取り組みを重点的に行い、二軍の試合でも捕手にお願いして内角とカーブを多めに要求してもらいました。「実験」の結果が「仮説」通りになると、より精度を上げるために次は筋肉や関節の動き、トレーニング方法と、いろいろなことにアンテナを張って「実験」するようになりました。結果、翌’02年は後半戦から一軍の先発ローテーションを任され、’03年のブレイクスルーへと、つながったのです。

 昨季、育成から這(は)い上がってオールスター出場を果たした阪神の原口文仁(ふみひと)の場合、掛布雅之二軍監督が新井良太に打撃指導しているのを隣で見ていた時に「気づき」がありました。「ステップと同時にヒジを弓のように張り、一気に振り出せ」という助言がスッと頭に入ってきて「これだ!」と思えたというのです。

「直接言われていたら、気づけたかどうかわからない」と原口は振り返っています。

 当時の彼は「もう後がない。何とかしなければ」と気持ちに余裕がなかったため、直接アドバイスされてもなかなか頭に入ってこなかった。ところが、新井への指導を間接的に耳にしたことで、冷静に自分と照らし合わせることができたのです。

 ブレイクスルーのキッカケは、どこに落ちているかわかりません。自分を客観視する冷静さと、何でも糧(かて)にしてやるという情熱の持ち主だけがつかめるのです。

斉藤和巳の「エース脳」
さいとう・かずみ●’77年京都府生まれ。プロ通算79勝23敗、勝率7割7分5厘。右肩の故障に泣かされながらも「負けないピッチング」で沢村賞を2度受賞。太く短く生きたホークス伝説のエース
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