連載 斉藤和巳の「エース脳」マウンドから見たドラマの裏側 第41回 大舞台で生きる石川歩の「マイナス思考」

連載 斉藤和巳の「エース脳」マウンドから見たドラマの裏側 第41回 大舞台で生きる石川歩の「マイナス思考」 画像1
140㎞台後半の速球や得意球のシンカーなど、質の高いボールを自在に操るのが石川の持ち味
 第4回目WBCの開幕投手を任されたのが、千葉ロッテの石川歩(あゆむ)でした。侍ジャパンは前回大会で三連覇を逃(のが)し、V奪回が今大会の至上命令。しかも、相手は野球大国のキューバ。相当な重圧があったはずです。
 しかし、石川はキューバを4回1失点に封じて勝利に貢献。チームに勢いをもたらしました。2次ラウンドのオランダ戦は3回5失点と打ち込まれましたが、誰が先発しても、メジャーリーガーを並べたオランダ打線を封じるのは難しかったでしょう。
 僕が注目したのは、随所に見えた「石川の冷静さ」です。たとえば3回裏、バレンティンに同点2ランを浴びると、次打者のグリゴリアスにフォアボール。流れは完全にオランダです。ところが石川はストライクをとり急ぐことなく、打ち気にはやるJ・スクープをスライダーで仕留めたのです。
 WBCのような短期決戦では、どんな選手でも重圧から逃れられません。そんな舞台で普段通りのピッチングができるのですから、昨季、パ・リーグの最優秀防御率を獲得したのもうなずけます。
「心・技・体」という言葉がありますが、最初にくるのは「心」。心が先にあることには、何か意味がある。どんなに速い真っ直ぐや鋭い変化球を持っていても、心が弱いと実力を発揮することはできません。それほど心は大事なのだと思います。
 キューバ戦の後、石川は「緊張しなかった」とコメントしました。強心臓の持ち主だと思っていたのですが、大会前、彼はロッテの仲間にこう言っていたそうです。
「WBCから帰ってきたら、ロッテに俺の居場所はないよ。ローテに入れず二軍だよ」
 WBCで打たれて自信を失い、調子を崩し、チームでも必要とされない――そんな最悪の事態を想定していたのでしょう。
 意外にも石川は「マイナス思考」な選手で、人一倍練習しているのに「大事な試合を任される選手じゃない」「自分に一級品のボールはない」などとネガティブ発言を連発。登板前はトイレで吐くほど追い込まれているのに、マウンドに上がるや、何事にも動じないピッチャーになるのだとか。
 このエピソードを聞いて共感しました。僕も登板前はマイナス思考だったからです。石川と同じく、僕も登板前はトイレにこもってネガティブなことばかり考えていました。あらゆる不安材料を想定し、対処法を徹底的に考え抜くことで、マウンド上でパニックになるのを防ぐのです。
 思えば初戦のキューバ戦、無死1塁のピンチで石川は次打者をサードゴロに打ち取りました。ゲッツーかと思いきや、松田宣浩がエラー。ピンチが拡大しましたが、動じることなく後続を断ちました。味方がピンチにエラーする可能性すら想定して、試合に臨んでいたのだと思います。
 己の実力を過信せず、メンタル面を安定させることにも全力を尽くす。そこまでやっているからこそ、どんな厳しい場面でも普段通りのプレーができるのです。代表チームにあって、石川は頼れる存在です。
image
さいとう・かずみ●’77年京都府生まれ。プロ通算79勝23敗、勝率7割7分5厘。右肩の故障に泣かされながらも「負けないピッチング」で沢村賞を2度受賞。太く短く生きたホークス伝説のエース
あなたにオススメ

FRIDAY GOLD

6月23日発売
friday gold